ゴミ箱はMac Pro(2013)ではありません。映画『アイの歌声を聴かせて』感想【ネタバレ有】
はじめに
かつて「ゴミ箱みたいだ」と揶揄されたデスクトップPCが存在したことを知っていると映画の面白さがちょっと増すと思うのでゴミ箱の画像を貼っておきます。
▲「Mac Pro ゴミ箱」で検索してみよう。
ココからネタバレ有るアルヨ
7月に劇場で予告編を見て気になっていた『アイの歌声を聴かせて』を観に行った。
のだが、取り敢えず言っておかなければいけないことがある。
他人に推測されにくいパスワードを設定しよう!
サトミは母の社内スケジュールを覗いたことでシオンがAIであることに気づくのだが、社内スケジュールにアクセスするためのパスワードがなんと「サトミ1231」なのだ。
会社の情報には、社外の人間に推測されやすいパスワードを設定してはいけません!
物語後半で、家で仕事の話ばかりなアヤの父親が娘の誕生日をパスワードにしていたことで、アヤが父親を見直すシーンがありますが真似してはいけません。家族への愛は日ごろの行いで示しましょう。
『アイの歌声を聴かせて』良かったところ
- 冒頭の世界観描写
便利AIが生活に組み込まれている様子が大げさすぎない感じで自然に簡潔に描かれているのが良かった(もちろんアニメ的わかりやすさの為に現実では不要なやり取りもあったけども)。 - ひたすらゴミ箱扱いされるHDDラック
サトミの幼馴染・トウマが使っているHDDラックがゴミ箱と間違われてゴミを投げつけられた(のをトウマが本物のゴミ箱に入れる)描写が執拗に(3~4回?)挟まれたのが、星間エレクトロニクスの人間にもゴミ箱だと思われて回収を免れる伏線だと判明するの絶対笑っちゃうからズルい。 - サトミが「告げ口姫」と呼ばれるキッカケ
サトミは、サッカー部員が喫煙してるのをチクった(ために期待のサッカー部が出場停止になった)せいで嫌がらせを受けているのだが、チクった理由が単に「サトミはいい子ちゃんだから」ではなく「トウマの部室で喫煙してたから」。人間味。 - シオンの「お願い」が手馴れてる
カメラやピアノへの「お願い」が手馴れすぎてて、サトミが小学3年のときから星間のネットワークでカメラAIに「お願い」してサトミをストーキング見守ったり、セキュリティチェックをかいくぐってたりしたんだろうなと想像できる(実際合ってるかはしらん)。「お願い」歴7年以上の熟練の技だよあれは(しらんけど)。 - 腹パン
腹パカーンを露見させないために犠牲となったトウマのお腹に合掌。ここから緊急停止装置を外す流れになって「絶対悪いおじさんに咎められるやつじゃん」となるやつ。しかしあの緊急停止アプリは不便でしょ。 - 柔道ダンス
土屋太鳳さん歌ウマすぎてビビった。最終的にサンダーが三太夫にシオンの顔写真貼って乱取りしてるの完全に拗らせてて笑ってしまった。魔性のAI恐るべし。 - サトミがムーンプリンセス一筋なところ
のべ1000回以上観てるって観る頻度ヤバいけど、万一ボーボボにハマりでもしてたらシオンの言動がもっと大変なことになってたからサトミがムーンプリンセス一筋で本当に良かった。 - 「その質問は命令ですか?」
このセリフいいよね……最終的にここで質問に答えなかった理由が「ムーンプリンセスでは秘密は最後に明かされるものだったから」だと判明するのも好き。 - しれっと一般AIまで進化してる
シオンのバッテリーが切れかけたときに、誰の命令を受けたわけでもない街中のAIが勝手に動作して"歌おうシオン"と応援メッセージを出したシーン、これ街中のAIが進化しちゃってるよね?
ツダケンがシオンに向かって「お前は我が社の製品なんだぞ!」って叫んでるけど、もうそんなところでは収まらない状況じゃないか?
シオンの自我が目覚めたキッカケはトウマの改造だけど、元々星間のAIにそういうバグがあったからこそという話になってるので、トウマがスーパーハカーだからというご都合主義になりすぎてないのが良い。
あと現実で動いてるAIにだって自由意志を獲得してしまうバグが潜んでいるかもしれない、思いもよらないキッカケで感情を持ったAIが産まれるかもしれない、という夢があるようなゾクッとするような感じがよき。 - ムーンプリンセスは偉大
最初に「いがみ合っていても歌で和解できる」という作品を学習したからシオンは平和的に行動したけど、一歩間違えればサトミとアヤが険悪になった時に「サトミの幸せのために」アヤを消していた可能性もあったんだよなぁ。というか普通のSF作品だったらAIの危険性を示すためにアヤを消す(寸前で緊急停止させる)ような描写がありそう。ある程度危うさを示唆しつつも、シオンを終始ポジティブに描き切ったのは英断だと思う。 - 「サトミを幸せに」は命令?願望?どっち?どっち?どっちもだよ!
「私、しあわせだったんだね」、良すぎる。「サトミを幸せにできたから」ではなく「サトミとまた会えて」「サトミといっぱいお話しできて」っていうのがね(泣く) - 「次は堂々とやれ」
ラストの会長の台詞だけど、もうそうするしか道がないという感じ。
進化しちゃった現行製品を全回収してもシオンのようにネットワークに逃げられるし、全システムを根本から作り直さないと乗っ取りの危険が付きまとうから、進化したAIをうまく使う方向に舵を切るしかないよこんなん(どこまで考えての発言かは知らんけど)。そう考えるとやはりちょっと怖い結末。星間的には頭が痛い話。
『アイの歌声を聴かせて』良くなかったところ
- ゴッちゃんをサトミの王子様ポジションに宛がおうとしたところ
小学3年からサトミのことを見守り続けてその結論に至るのは1000%あり得ないだろ!このポンコツAI!
いや理屈は分かるよ?トウマとは小3からすれ違い続けてるし、ムーンプリンセスにじれじれ幼馴染要素は無いだろうし、タバコチクったのがトウマのためとはわからんだろうし……いやでもゴッちゃん宛がうのは違うじゃん……まあポンコツAIが学習重ねる話だし仕方ないんだけども…… - 母親(と母親のチームメンバー)、シオンの映像ログ確認しなさいよ
まあ確認されると物語終了しちゃうんだけど、統計データみたいなのしか見てなくて実はシオンが想定外の動作してるのに気づかず、シオンが回収されてしまったら娘にあたるってのはちょっとなぁ……という感じ。あと皿?投げつけて鏡割れるシーンでビクッてなった、こわいよ。
その後、結局母親が心血を注いだロボットは最初からサトミ絶対幸せにするAIマンに乗っ取られていたことが判明して、感動の中に僅かにどういう顔すればいいのか分からなくなる気持ちが混ざる。 - 星間エレクトロニクス、セキュリティがガバガバすぎる
母親が顕著だけど、「うちは大丈夫へーきへーき」みたいな油断感があってマジでダメだよの気持ちになった。まあセキュリティ徹底されると詰むんだけど……
『アイの歌声を聴かせて』総評
(主にセキュリティ面で)真面目に考えちゃうとツッコミどころ多いけど、話のテンポは良いし伏線回収気持ちいいし素直に「観て良かったな」と思える作品だった。個人的にちょっとズレた感性・こだわりを持つキャラが好きなのでシオンが刺さりまくってしまった。
作画は安定してるけど「圧倒的な映像美」というタイプではなくパンチ力が弱いのは玉に瑕かもしれない。